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『天狼 Sirius the Jaeger』第9話の感想と演出について

涼子、まさかの勘違いでユーリィらとピンポイントで合流。ううむ、どうやらユーリィは涼子から逃れられない運命にあるようですね。ストーカーなんてチャチなモンじゃありません。もっと根深いものを彼女は背負っているようです。おおいぬ座のモチーフになったとされるギリシア神話のひとつ、どんな獲物も必ず捕えるという猟犬レラプスさながら、もはや自分の意志に関わらず、どこまでもユーリィを追いかけて逃さない直江涼子の宿業。実は彼女こそ、シリウスの星のもとに生まれた天性の狩人だった!?

では、本作タイトルの副題が持つ真の意味がめでたく判明したところで(ウソつけ)第9話の感想です。

 

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

自分とヴァンパイアのあいだにある因縁の根源がシリウスの匣にあることを理解したユーリィは、匣を封印した父親の足跡を辿り、その真意を確かめるべく赤坂大尉のもとを訪れますが、大尉は頑なに口を閉ざします。そんな大尉の強固な態度を象徴していたのが、彼が吸っているキセルの煙でした。ユーリィにとって遮蔽性を意味させるこの映像言語が、前回に続いて再び効果的に使用されています。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

ユーリィと赤坂大尉が向き合うシーンは印象的な画面の見せ方が多く、火傷の痕が残る大尉の手をさりげなく映すカットもその一つでした。劇中では詳しく語られていませんが、おそらくアレクセイの肉体を解放させようと、封印の泉に彼が立ち入ったことを示唆するこの両手の痣は、アレクセイに対する大尉の親愛の強さの証であり、それは裏返せば陸軍への復帰を諦めてまでアレクセイとの約束を堅守しようとする、大尉の心の壁の厚さをも証明しています。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

そんな大尉の心の壁を崩すきっかけとなったのは、彼がユーリィのなかに見たアレクセイの面影だったわけですが、大尉の瞳のなかでユーリィとアレクセイの影が重なる様子は、単に親子の血の繋がりを示唆するだけではありません。ユーリィが涼子との会話で実感することになった、父から兄へ、兄から自分へと伝えられてきた「誰かを守りたい」という誇り。それが、アレクセイとの友情を育んでいた赤坂大尉の目にもはっきりと認めることができるくらいに、ユーリィのなかにもしかと刻まれ、彼の精神性が父親のそれと肩を並べるほどに成熟したことを伝える象徴的なシーンでもあります。

 

はじめは任務のためにシリウスの一族に接触した赤坂大尉ですが、共に同じ時を過ごすうちにアレクセイの意志を尊重するようになり、アレクセイの消失以降は匣の封印を守るため、たった独りで北の大地に留まり続けていたようです。しかし、父親の意志を継ぐユーリィの心根の強さに圧され、ついに友と交わした約束よりも友を想う自らの本当の願いを優先させて、大尉はアレクセイの運命を息子のユーリィに委ねます。

組織によって押し付けられる論理ではなく、他者とのふれあいのなかで自らが実感する、"生々しい心の感触"こそが自身の選択を規定させる。大尉の心の揺れ動きを通して浮かび上がるこのようなテーマは、本作を仕切る安藤真裕が初監督を務めた劇場アニメ『ストレンヂア 無皇刃譚』(自由や解放といった普遍的なテーマを、迫力ある剣戟アクションの快感性へとことん落とし込んだチャンバラアニメの傑作)のなかでも描かれています。

また、このテーマはV海運本部の意向に反してユーリィのために行動するウィラードたちの親愛や、匣を持ち帰るかどうかはあくまで自らの意志で判断すると語る伊庭少佐の冷静さや、狩人としての立場を離れて孤高の道を選んで樺太に来たユーリィの決断のなかにも見受けられる気がします。キャラクターたちの岐路を通して同様の態度が反復されることで、物語のテーマ性もグッと際立ちます

 

 

では、今回気に入ったアクションシーン。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

爆煙でユーリィの嗅覚を奪いつつ、浮遊しながら無音で接近して隙を突いたり、かくれんぼのように木の陰に隠れて隙を伺い、後方や側面から対地攻撃を仕掛けてくるラリーサとタマーラの連携プレー。なかなか賢い戦術ですが、油断して不覚を取る脇の甘さがなんとも子供らしいです。

コウモリの羽の意匠を凝らしたナイフや、ナゾのビー玉爆弾といったオモチャのような武器も、残虐な遊びを楽しむ幼児的感性が抜けない二人らしさがあって良いデザインですね。

 

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

タマーラに王手をかけるユーリィ。テンポのよいアクションからのスローモーションは、通常は緩急のリズムや、一瞬の緊張感、印象的なシーンを注視させる意図などで使われるものですが、同時に僕はアクションの快感性に水を差されるような、ちょっとしたストレスも感じてしまうんですよね。

でもこのストレスが、なんだかタマーラを仕留めることを躊躇するユーリィの忌避感と上手いことシンクロするようでなかなか面白く感じました。そもそも手書きアニメでのスロー演出というのはワンカットでかなりの作画コストを消費するため、余程の意味性がなければ安易に使用される事はありません。タマーラのアップショットではこれらの心理効果がとくに集約されている気がします。

ところで、タマーラへの攻撃を躊躇ったユーリィの「あの目が嫌だった」理由とはなんだったんでしょう。おそらくはこれまでの経験によってヴァイパイアに対する共感性が備わったためと思われますが。あるいは、タマーラが自分に向ける恐怖を通して、ユーリィは自らの獣性をも客観視してそれを省みたのかもしれません。

 

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

「死の暗晦」を発症して体の制御を失うと、ヴァンパイアの血の盟約も無効化されることが判明し、それと同時にミハイルの死亡フラグが立ったシーン。何気にエフグラフの側近である大柄ヴァンパイアのヤゾフにも見せ場がありました。タマーラの盟約を跳ね除けたスレイヴズを盾で防いで押し退けるヤゾフ。パワータイプらしい重量感のある一発をお見舞いしています。

 

 

第九話『残痕の朋輩』

脚本:小柳啓伍

絵コンテ:岡村天斎

演出:塚田拓郎

作画監督:川面恒介、森島範子、杉光登

作画監督補佐:宮崎司、小島明日香

総作画監督松浦麻衣、佐古宗一郎