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人生には物語とROCKが必要だ。

『天狼 Sirius the Jaeger』第8話の感想と演出について

物語の舞台を帝都東京から樺太に移し、シリウスの匣を巡ってそれぞれの思惑が交錯する「第2部」の幕開け。 第二の家族とも言える仲間たちと別れ、シリウスの末裔として自らが果たすべき役目を自分自身の意思で模索するユーリィと、匣を封印した父親の意思に体を拒絶されながらも、一族の無念を晴らしたい一心でエフグラフの盟約に抗うミハイル。青と赤の運命に引き裂かれた兄弟の孤独な闘いが、歴史に翻弄され、のちに地図上で色を失うことになる北の大地で繰り広げられます。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

第8話はミハイルの受難とユーリィの新たな出会いが中核となって構成されていますが、とくに印象的だったのがミハイルサイドの色彩演出です。ミハイルを苛む青と赤の記憶。洞窟内の結晶に反射する青と赤の光。封印の泉に身を焼かれるミハイルから立ちのぼる青と赤の煙。シリウスの誇りを保ちながらヴァンパイアの体に縛られる彼の悲劇が、それぞれの種族のパーソナルカラーである青と赤の鮮烈なコントラストで彩られていました。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

また、衝突するこの二色の対比はミハイルの目を通して彼の心情や苦痛、彼を制するエフグラフの超越性も引き立たせています。エフグラフとともに洞窟に入っていくミハイルの敵意に満ちた青い瞳や、その強い意志がエフグラフの支配によって挫かれる絶望感を伝える赤い眼。なかでもミハイルの回想のなかで、彼の瞳に映り込むエフグラフが迫ってくるシーンは、彼のシリウスとしての身体の中がエフグラフのくびきで侵されるさまを象徴するようでとても印象的です。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

 

エフグラフに身体を許しても、心までは奪わせないミハイル(←言い方)の真意が明示されたことで、シリウスの二人の兄弟は、ヴァンパイアと狩人の単純な二項対立の図式からますますはみ出していくことになります。樺太という新たな舞台のなかで、ミハイルの反逆心とユーリィの自立心が強調されたことによって、彼らの視点を頼りに物語を追っていくほかない視聴者は、両陣営の枠組みから外れた俯瞰的で客観的な視点で、ヴァンパイアと狩人の対立を捉えることが可能になります。

そういった立ち所では味方も簡単には信用できません。ユーリィが新たに出会った狩人のビショップは、葉巻の臭いで誤魔化しながらも体に染み付いたヴァンパイアの血の臭いをユーリィに気取られます。狭い車内に一瞬の緊張が走りますが、ビショップもまたヴァンパイアを狩り続ける狂気の末に復讐心に身を焦がすことになった一人であり、ユーリィと重なる運命を生きるキャラクターであったことが判明します。

狩人はなにかとワケありな人間が多いようです。まあ、ビショップの口ぶりから察するに、自分たちの生業が毒で毒を制するようなヤミ稼業であることは自覚しているようですね。孤軍のユーリィにとってビショップは頼れる戦力ですが、それでも彼の事情を考えると、何かを企んでいそうな不穏な影は完全には晴れません。彼が燻らす葉巻の煙は、ユーリィが煙によって嗅覚を無効化させられるのと同じように、真意を掴ませずに相手を煙に巻く彼の不敵さを物語るようでもあります。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

 

ところで、東京という馴染みの深い舞台と史実性の高いプロップデザインで、現実と地続きな強度のある世界観を作り上げてきたこれまでとは打って変わり、今回のエピソードでは物語のカギとなるシリウスの聖地と、そこで施されたナゾの力を持つ封印に急接近したことで、作品のファンタジー度も一気に上昇し、いわゆる「フィクションライン」がグッと底上げされました。(とはいえ、画面のなかで描かれる当時の南樺太の様子は、相変わらず丁寧に再現されているようです)

東京が舞台だった物語の前半では、ヴァンパイアと狩人のバトルを軸にストーリーが展開されてきたため、没入感を阻害しない程度の設定だけが開示されてきたような印象ですが、シリウスの匣の謎に迫るミステリー展開が前面に押し出されていきそうな後半では、人狼と吸血鬼の両種族の生態に関する本作の独自設定がストーリーに強く絡んでくるのかもしれません。

……あれ?  それだと涼子が物語に入り込む余地って残ってなくね?  彼女もユーリィと同じように、社会のなかで果たすべき務めを自分自身の意思で見出すべく、一応は外の世界を志向しているように見えますが。というか、ラブコメ要員に思えた彼女も現状は矢印が一方通行でしかないんですよねぇ。なにぶんユーリィさんがアニキのこと好きすぎてラブコメの波動を微塵も発しないボンクラなので。涼子がそういう立ち位置にないのだとしたら、はて、彼女の今後の役割はいったい……?

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

う〜〜〜ん………………………ラスボスとか?

 

 

今回は溜め回のため戦闘シーンは小振りですが、個人的に驚いたのは双子の扱いです。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

メチャメチャ闘うじゃんw

いや、てっきり基本的には愛嬌振りまく置き物扱いで、どこかのタイミングで他の狩人に殺されそうになったり、病が発症して死にかけたりして、ユーリィのヴァンパイアに対する価値観を揺るがすための役どころでしかないんじゃないか、とか思ってたんですけど……。

モロ戦闘要員でしたw  いや、それだけヴァンパイア勢が追い込まれているという事なのか、あるいは彼女たちにしてみれば単なる「遊び」なのか、はたまたヴァンパイアはナチュラルに戦闘民族か何かなのか(笑)

 

 

第八話『然る者、紫煙に薫る』

脚本:小柳啓伍

絵コンテ:小島正幸

演出:倉川英揚

作画監督:杉光登、三浦菜奈、竹本未希

総作画監督松浦麻衣、佐古宗一郎