UglySmile

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『天狼 Sirius the Jaeger』第5話の感想と演出について

理性で統制されているからこそ安全性が保たれる空間に、野放図なテロ集団や制御不能な人造人間という波乱要素が放り込まれる恐怖。潜在的不安を煽る効果的な状況作りによって、特急列車という閉鎖空間での緊張感は最後まで途切れることがありません。さらに、列車アクション物にお約束なシーンも豊富で、中盤の山場に相応しい見応えのあるエピソードだったと思います。涼子と伊庭少佐も本筋へと本格的に絡むことになり、ヴァンパイア対策における関係性が大きく変化しそうな予感を抱かせる回でもありました。しかし最近のアニメ界の列車アクションブームは一体なんなんだ。

派手なアクション作画に目が行きがちな第5話ですが、だからと言って会話シーンで手を抜くようなことはなく、今回もしっかりと魅力的な表現は織り込まれています。例えばアバンでのトンネルの使い方。トンネルに入ると同時にミハイルの目の色の変化で、彼の体がヴァンパイアへと塗り替えられた事実を補完しつつ、出口の見えないユーリィの心に光明が差すかのように、ミハイルの言葉と同時にトンネルを抜ける流れ。特定のシチュエーションを多面的に活用しているんですね。(ちなみにトンネル内では窓ガラスにミハイルの姿が映っていました。本作では「吸血鬼は鏡に映らない」という設定は無いようです)

また、状況だけではなくキャラクターの"再利用"も印象的でした。ユーリィの斜め後ろの席に座る幼い姉妹の存在は、前回の時点では視聴者の不安を煽るために効果的に配置されていましたが、今回は列車を降りそびれた妹をユーリィが助け、再び列車に戻るという状況を作り出し、兄と向き合うことを迷わないユーリィの心情を際立たせる役目を担っています。それと忘れてはいけないのが人造人間の素体として文字通り再利用された鞍岳です。1話限りの使い捨てキャラかと思っていましたが、こっちが主目的だったとは……。状況やキャラクターを過不足なく有効活用する精緻な作劇に唸らされます。

 

なにかとユーリィの前に現れて思わせぶりな台詞を残して去っていくメンドくさいアニキですが、どうやら記憶も感情も全く失われていないようです。そんな状態で忌むべきヴァンパイアの体に囚われるミハイルの境遇は悲惨なもので、なんだか吸血鬼の体と人狼の記憶を縫い合わせて新生した彼の方がよっぽど、今話の英題サブタイトルの原典に登場するフランケンシュタインの怪物に近いような気もします。ミハイルが言うところの復讐者の目というのがそれこそ彼の濁った目のようなものであるなら、まさしく彼こそ復讐者に相応しい「蘇えりし者」であるとも言えるでしょう。ユーリィに対する彼の態度は、「復讐するは我にあり」という事なのかもしれません。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

ところで、この作品に登場するキャラクターの多くは、身体性というものに対してかなり頑固で窮屈な価値観を持っているようです。ヴァンパイアと狩人とのあいだには決定的な断絶が存在していますが、しかし、兄弟の絆を断ち切って殺し合わなければならないほど、なぜヴァンパイアとしての身体性はそこまで強力な拘束力を持つのでしょうか。身体性が自我に影響を与えるのはもちろんですが、少なくともミハイルはユーリィを以前のように愛し、さらにはその首筋に口を寄せても吸血衝動を抑制できています。このまま新しい姿のミハイルとして兄弟の仲を取り戻し、折り合っていくことはできないのでしょうか。

ここで人狼とヴァンパイアの種族間対立に、現実社会の排外意識や差別意識を仮託させるのは容易でしょう。他者の評価を歪ませる認知バイアスの問題として兄弟の仲を捉え直したとき、物語上で投げかけられる問題の図式は、それほど現実と乖離したものではなくなります。そしてまた、この問題を解決する落とし所となりそうな言葉も、すでに物語上で示されています。フィリップとユーリィのあいだを取り持った咲の言葉。血の因縁を否定して個人単位で相手と向き合うことを気付かせた咲の言葉です。なんだ。もう答えは出てるじゃないか。たとえヴァンパイアであっても兄としてのアイデンティティを優先すればオッケーじゃん?

 

 

 

……と、ここまではいいんですが、でもちょっと待ってください。そうなるとひとつ問題が生じてしまいます。ミハイルとユーリィの断絶を解消するために、ヴァンパイアに対するユーリィの復讐を個の問題へと置き換えてしまったら、ヴァンパイアという理由だけでブチ殺されてきたこれまでのヴァンパイアたちの立場はどうなるでしょう。もちろんユーリィは「狩人」です。しかし、狩人という立場の免罪符は、彼の生来の正義感を納得させるだけの効力をはたして持ち得るでしょうか。

また、もしかしたらそれ以上に深刻なのが涼子の立場です。咄嗟の判断でヴァンパイアを一刀のもとに切り伏した彼女は、確かに1話の時点で百虎党と対抗する意志を持つほど正義感に溢れていました。ドロテアをはじめ狩人たちは「ヒトじゃないから」罪悪感を持つ必要はないという考えの立場です。一度は狼狽えた彼女も「人間じゃないから大丈夫」という刷り込みで自身を正当化させるでしょう。しかし、その価値観が崩れてしまう事態に陥ったとき、彼女は"急迫不正の侵害"だったのだから仕方なかったと、どこまで合理的に自分自身を納得させることができるでしょうか。

つまり何が言いたいのかというと、ユーリィがヴァンパイアのミハイルを兄として受容した瞬間に、ヴァンパイアを受容できる存在として認めるわけにはいかない涼子とユーリィのあいだには、決定的な断絶が生じてしまうのではないかという話です。ううむ、なんだか縛りの多い展開になってきました。ただ、だからこそどうやって話を纏めるのかとても楽しみです。でも、涼子ちゃんの曇り顔はあんまり見たくないよ〜。

 

とはいえ、ミハイルもそんなに悠長なこと言っていられるような体じゃないかもしれないんですよねえ。クラルヴァインが造った人造兵器・鞍岳は見たところ、体とホースを伝う血液、あるいは2話で示唆されていた代替血液の量を調整することで制御を可能にしていそうです。このホースが破損したために鞍岳は「もう、止まらなくなった」んですが、もしかするとヴァンパイア化した人間というのは、体内に血液を取り込まないと自分ではもうどうにもできない暴力衝動に、どこまでも体を奪われてしまうのかもしれません。

ヴァンパイアとして「爪と牙」を使うことなく、あくまで頑なに銃火器を用いる戦闘スタイルからも伺えるように、ミハイルはヴァンパイアとして生きることを未だに受容していないように思えます。もしもヴァンパイアが理性を保つために定期的に人間の血を欲し、それは眷属化したミハイルもまた同様であるのなら、彼はこの先ずっと人間の血ではなく代替血液に頼らなければならないでしょう。ただ、代替血液の効果というのもどれほど信用できるか分かりません。それを示唆するのがミハイルの「もし、俺もこいつのようになったら」という台詞です。あるいはこの台詞は、彼のなかで制御を失いつつある復讐心を示唆するものでもあるのかもしれません。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

それともう一つ不安なのは、1話のラストでミハイルがユーリィを狙撃した場面。ミハイルは「狩人は見つけ次第殺せと言われていたが、ユーリィを殺したくなくてワザと急所を外した」というようなことを語っていましたが、しかしあの時のユーリィの暴走っぷりを見ると、ひょっとして人狼もまたヴァンパイアと同じく上記のような制約が存在し、ミハイルはその発動を防ぐためにユーリィを牽制したのではないか、と思ってしまうんですよね。そもそも僕はヴァンパイアと人狼は同一のルーツから派生した種族ではないかと思っています。人間との混血が進んだために変身のような特性は人狼種のあいだには失われたようですが(公式サイト)、シリウスの力を覚醒させてしまったユーリィはその限りではないかもしれないと考えています。ちなみに中欧・東欧に居住するスラブ民族の神話のなかでは、吸血鬼と人狼は同一視されるらしいです。

 

 

なんかすみません。演出とはあまり関係のなさそうな話が長くなってしまったので、そろそろ今回のアクションシーンについて。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

突進してくる鞍岳を躱すユーリィ。ここのシーン、はじめはどうしてわざわざ三節棍を使ってるんだろうと思ったんですけど、よく見るとユーリィの頭上には残った列車の屋根があるんですよね。つまり、普通にジャンプして避けようにも屋根が邪魔なんです。そこで三節棍を使って避けたときの高さを制限させてるんですね。

暴走して自らの力を制御できない鞍岳と、冷静に状況を判断して自らの力をセーブしてるユーリィの対比として考えるとなかなか面白いシーンです。

 

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

ミハイル兄貴の本気バトルはやっぱいいですね。あの俊敏さ、スピードタイプなのかな。何気に暴走する鞍岳の「走るゾンビ」感もやばいですね。これ量産させちゃマズイでしょ。最後の決めは敵同士が交差する時代劇のお約束。ここでまさかの手榴弾という意外性がたまりません。もうミハイルは人狼ではないのだという徹底描写も兼ねる、キャラクター性を意識した丁寧な殺陣です。

 

最後に前回の強キャラ感が嘘のような、なんとも似非ナショナリストらしい直虎の無様な最期について。悪意すら感じるこの落差、正直キライじゃないぜ。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

 

 

第五話『荒ぶる鉄棺』

脚本:小柳啓伍

絵コンテ:安藤真裕

演出:菅沼芙実彦

作画監督:杉光 登、小島明日香、川面恒介、鍋田香代子

総作画監督松浦麻衣