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人生には物語とROCKが必要だ。

『天狼 Sirius the Jaeger』第4話の感想と演出について

虎党と結託していたカーシュナーたちの「部品」集めはひと段落して、吸血鬼の企みとそれを追う者たちの物語は第二局面へ。アルマ商会と陸軍の繋がりにキナ臭さを嗅ぎ取った狩人たちと伊庭少佐は極秘演習が行われる御殿場へと向かい、カーシュナーに使い捨てられた百虎党もそこで使用される新兵器を狙って後を追います。おまけに兄貴まで現れてこの先タダで済むワケない不穏な引きに、鉄道ファンもザワつく第4話。

ユーリィを基点にして物語を引っ張っていた印象が強い1話から3話までとは違い、複数の視点を何度も横断していく4話ですが、それぞれの物語の導火線を特急列車という狭い舞台に一気に集束させることで、アクションは控えめながらも全体的に緊張感に満ちたエピソードになっています。多数の組織やキャラクターが入り乱れる本作ですが、相関図が複雑になりすぎない程度に物語を掻き回しつつ、関係性を整理できる結節点も用意する展開の上手さは、さすが群像劇に強いP.A.作品といったところでしょうか。

ひとつの場面で多くのキャラクターを効果的に動かし、さらに情報も詰め込んでいくのは、大所帯作品にとっては必須の技術でしょう。その都度、限られたキャラクターを狭い空間に閉じ込めて物語を動かすばかりでは、多くのキャラクターとの関係性を変化させたり広げていくために多大なコストがかかってしまいますから。30分アニメという尺のなかでそれなりの密度を視聴者に体感させるなら、なおのこと掛け合いの質が問われてくると思います。

その点において、今回の話でとくに印象的だったのが、狩人のメンバーたちが警察から借り受けた捜査資料を調べているシーンから、涼子が夕食の誘いのために部屋を訪れ、彼女が部屋を後にするまでの一連の流れでした。百虎党の動向に違和感を持つドロテア、やけに捜査に積極的なユーリィ、フィリップに対するファロンのお子様イジリ(重要)、涼子の慌てっぷりとその気持ちを勘繰るドロテアとフィリップ、これらのやり取りのなかには状況説明や感情の変化、後々のシーンに繋がる伏線などがごく自然な流れで詰め込まれています。凄く上手いです。

さらにもう少し空間を広げて考えると、アルマ商会という舞台を設定することで、ウィラードと伊庭少佐の腹の探り合いから、伊庭少佐と柿崎少将の会話へと唐突感もなくシーンを繋げることができ、さらには百虎党の蛮行、そしてそれを発端としたウィラードたちの行動を誘発することができます。特定の空間で物語を交差させることで、場面転換の多用による混乱も少なく済むんですよね。多くのキャラクターの「動線」をコントロールするために効果的な場を設けているのは、夕食会のシーンや列車という舞台も同様です。

 

また、このエピソードでやたらと特徴的だったのが、場面転換の際のマッチカットです。マッチカットという言葉は定義が曖昧なために様々な形で用いられるようですが(ぶっちゃけ僕も今回の記事を書くにあたってはじめて知った用語です)、ここでは「形状や動きの類似する被写体のカットをつなぐこと」という意味で使わせてもらいます。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

冒頭でユーリィたちが涼子から夕食の誘いを受ける場面。窓から空を見上げるユーリィのカットと、アルマ商会に赴いたウィラードが窓を覗いてるカットのつながり。柿崎少将との会話を終えて踵を返す伊庭少佐から太陽がのぞくカットと、狩人たちの部屋の照明のカットのつながり。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

東京を発ったユーリィが兄との再会を期待する場面。暗雲の下で羽ばたく二羽の鳥のカットと、バーの入り口で羽ばたいてる蝶のカットのつながり。そこでウィラードが飲んでる紅茶?のカットと、襲撃を受けたアルマ商会の血溜まりのカットのつながり。

直接には関連の無いカットのあいだを視覚的類似性で跨ぐことによって、バラバラの出来事にある種の連続性が生まれ、シーン毎のぶつ切り感が緩和されている印象を受けます。多くの状況が交差しながらも乱雑に感じないよう、スムーズな場面転換を心掛けているような丁寧な編集です。

 

4話は会話劇中心の溜め回にもかかわらず、不意に挟まれる俯瞰やアオリなどの印象的な構図や、手動エレベーターでの緊張感のある手の芝居や、エレベーターや車や電車といったモビリティを用いて流される背景など、視覚的に退屈にならないような演出も多く見られました。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

そんななかでも特に観る側を飽きさせないのが涼子のコメディ描写です。重くなりがちな空気を緩和させる彼女の初々しさやそそっかしさや考えるよりも直感に従う潔さ、そしてこれらを表現する多彩な表情の変化は観ていてとても楽しいです。危なっかしいその行動さえも個人的には清々しさの方が勝って感じられました。やはりラブコメは偉大です。ストーカーなんて言っちゃいけません。まだ合法な時代です。

それと、ドロテアが(ちょっとお節介だけど)良きお姉さんっぷりを発揮していたのも微笑ましかったです。涼子を刺激してからかう様子や、御殿場行きに同行してユーリィを気遣う様子は、まるで彼女が「ユーリィが別の生き方を選択できる可能性」を涼子のなかに見つけて喜んでるようにも見えました。湿っぽいのは苦手だけど浮いた話になるとイキイキしてるのも可愛いです。

そうそう表情といえば、列車のなかでお手玉を拾ったユーリィが、咲と同い年くらいの女の子から「ありがとう、お兄ちゃん」とお礼を言われたとき、一瞬だけ彼が見せた寂しそうな顔を僕は見逃しませんでしたよ。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

エグるねぇ(笑)  ドSか脚本。(だいすき)

 

何気に今回は吸血鬼サイドの内情についても僅かに触れられ、彼らの輪郭がおぼろげながらも見えてきたようにも思えます。エフグラフと対立していた穏健派の老ヴァンパイアたちが住んでいる場所は、グリボエードフ運河から望む血の上の救世主教会のカットから察するにサンクトペテルブルクのようです。ちなみに教会はロシア革命後にソビエト政権によって略奪され、1930年初期には閉鎖されてしまいました。老ヴァンパイアたちもまた現地の狩人から追われている身だとしたら、この教会は彼らが隠れ住むには絶好な場所かもしれません。

また、当時のペテルブルクの主要な建物が古代ギリシア、ローマ建築を合理的に再解釈して普遍性のある建築様式を追求する、いわゆる新古典主義建築を採用していたのに対し、1907年に完成した血の上の救世主教会は中世ロシアの伝統的な建築様式の影響を強く受けていると言われており、時代の変化に逆行する穏健派の老ヴァンパイアたちが引きこもる場所としてもシャレがきいてる気がします。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

あと、コウモリ然としてぶら下がる老ヴァンパイアたちの自己演出が過ぎる姿は、ゴシック・スタイルに身を包んで「吸血鬼としての誇り」などと嘯きつつも、侮蔑する人狼の宝や、人外の異能さえも自身の機械論的な研究哲学に包摂していそうなクラルヴァインに頼る、ダブスタ全開なエフグラフとの対比が強調されているようでもあって結構好きです。

 

 

今回はアクション少なめでしたが、アバンの百虎党首領・百瀬のシーンはいいですね。あの強キャラ感。横一文字にヴァンパイアの胸を裂く様子が実にエグいです。イテテテってなります。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

 

 

第四話『謀略の蟻』

脚本:小柳啓伍

絵コンテ:安藤真裕

演出:許 琮

作画監督:鍋田香代子

総作画監督:佐古宗一郎