UglySmile

人生には物語とROCKが必要だ。

『天狼 Sirius the Jaeger』第3話の感想と演出について

狼男と吸血鬼に加えてフランケンシュタインの怪物も登場し、ついに怪物三人組が揃い踏み。むむむ。まさかこのアニメ、怪物くんリスペクトと見せかけてその実態は、往年のモンスター映画のリブート『ダーク・ユニバース』プロジェクトが瀕死の状態にあるユニバーサル・ピクチャーズと、本作に出資してるワーナー・ブラザースの戦略的提携によって生まれた作品で、今後さらにミイラや透明人間や半魚人が登場して『V海運シリーズ』として展開されていくビッグプロジェクトなのでは!?(半分本気)

ちなみにこのアニメの吸血鬼設定のコンセプトについては、カーシュナーたちのショーヴィニズム的な振る舞いや戦前という時代設定から考えて、過去多くの娯楽作品が鋭化させていった怪人としての猟奇性をそのまま反復するよりも、ブラム・ストーカーのドラキュラ伯爵をはじめ、吸血鬼が近代文明や産業社会に反逆するロマン主義的なアンチヒーローとして、19世紀末の読者に持て囃されたという文学史的側面を意識して設定されているのではないか……などと個人的に邪推し始めてもいます。

だって、『CANAAN』を作った安藤監督がただ海外視聴者を釣るためだけに人外設定をぶっ込んできたなんて思えないしねぇ。

 

まあ、それはさておき第3話はユーリィとミハイルが悲劇的な運命を辿った経緯を説明する過去回だったわけですが、このタイミングでユーリィの人格形成に大きな影響を与えた人狼虐殺事件を取り上げたことで、掴み所のなかったユーリィのキャラクター性がぐっと立体化され、さらにユーリィとミハイルの今後や「シリウスの匣」争奪戦といった物語の指針が提示されたことにより、この高密度な世界観のなかでも視聴者が迷わずにストーリーを追っていける道筋が敷かれました。

また、この過去編が上手いのは単にこんな事がありました的なあらましを、物語の流れをぶった切って構成上の都合だけで差し挟んだわけではないという点です。自身の運命と咲の運命を重ねるユーリィの心の痛みや、兄を殺せるのかと思い悩むユーリィの葛藤に充分な説得力を持たせる機能も果たしているんですね。キャラクターの心情過程において本編との連続性がきちんと保たれているんですよ。本編と過去編を交互に見せていく構成によって、物語の流れを停滞させない点もポイント高いです。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

とくに秀逸だと思ったのが、過去のユーリィがはじめて覚醒する場面から、現在のユーリィと涼子のやり取りへと繋がる流れです。飛び上がった仔ユーリィが画面に急迫して一閃。直後に舞い散る花びらは時間と場所の転換を視聴者に知らせるのと同時に、ユーリィのはじめての"殺し"を暗示させます。まるでそのときの彼の殺意や狂気が、時空を跨いで持続しているかのように印象付けるこの滑らかなカットつなぎは、そんな彼に物怖じしない涼子の心根の強さも強調させる優れた編集効果を発揮していたと思います。ここ、ホント素晴らしい。

ちなみにこの場面での寒がるユーリィの姿は、攻撃性に支配される獣とは対比される、彼のなかの人間性を強調しているようでもあり、涼子が寒がる彼を見て笑う束の間の穏やかなやり取りは、狩人としてではないユーリィの別の在り方を認め、受け入れる立場として涼子がこの物語のなかに配置されていくことを、なんとなく僕に予感させました。(カプ厨脳)

それにしても、この後にユーリィが涼子を突き放すシーン。いやあイイですねえ。厨二病罹患者が一度は憧れるシチュです。ただ、そんなユーリィの態度も彼の過去を考慮するともっともな話で、たとえば再び大切な人が吸血鬼化して悲痛な選択が繰り返される可能性があるのなら、自分が狩人であるかぎり、他者との関係性を広げるのは出来るだけ避けたいと願うのも分からなくはないです。ひょっとすると彼がこれまでに仲間たちに見せていた素っ気なさも、心の隅でそんな展開を恐れるがゆえの予防線だったのかもしれません。

 

3話はユーリィのキャラクター性の掘り下げに寄与した回ではありますが、地味に彼の傷心によって他のキャラクターの片影を垣間見ることもできました。ユーリィを気にかける仲間たちの可笑しくも暖かい擬似家族っぷりがすごく好きです。しかも、それぞれの性格がよく表れてるのも良いです。また、ウィラードがユーリィに対して、上司としてではない、ごく私的な感情を見せる場面も印象的でした。

1話の船上のシーンでの「我々は協力しあう群れだ」という言葉や、2話の見舞いのシーンでの「血の力に溺れてはいけない」という言葉。大人としての立場からユーリィの未熟さを諭していたように見える彼ですが、しかし、狩人たちを束ねて作戦を遂行させる上司の立場としては、言ってみればユーリィの復讐心を利用しているようなものです。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

傷ついた幼いユーリィを唆して殺伐とした世界に引き込んでおきながら、一方では親身になって彼のことを気にかけている。バーでヤケ酒をあおる彼の姿は、そんな矛盾を抱える自分自身を責め苛んでいるように見えました。吸血鬼となった兄との関係について「どうすればいい」と惑うユーリィ。かつて列車のなかで同じ問いかけをされたときは答えられたのに、今は何も答えることができないウィラードの誠実さがなんとも切ないです。このときの陽が落ちて光の届かない部屋は、まるで、答えが見つからない二人の心中を表しているかのようでした。

どこか影のある特別な力を持った青年と、人生の折り返しを過ぎてふと今の自分の在り方に疑問を抱くオッサンの擬似父子関係。いやあイイですねえ。まるで福井晴敏の小説を読んでいるような気分です。たまりません。大好物です。(ヘンな意味じゃない)

 

ところで、過去回とはいえユーリィの出自についてはまだ不明な点もあり、村の住人に比べて母親が東洋系の雰囲気が色濃い顔立ちであることや、1話でウィラードが彼に「懐かしいか?」と聞いていたこと、やけに寒がりなその体質などから、ユーリィが人狼と日本人母のハーフであるのは想像がつきますが、父親については語られるんでしょうか。名前は出てましたけど。ミハイルが他の住人たちのような白人系なのは単に父親の血を強く受け継いだってだけなのかね。

また、人狼と吸血鬼がともに衰退の一途を辿った理由も気になるところですね。どうやら吸血鬼に不死設定はないようです。アガサたちも普通にヤられてるし。そういやミハイルってユーリィのことをきちんと認識できていたようですし、華田博士とは違って自我を保ってるようですね。"盟約"によって得られる恩恵も階層性が存在するのかな。

 

 

では最後にいつもの。気に入ったアクションシーンについて。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

ユーリィを守るためにミハイルが単身で吸血鬼たちに挑むシーン。ミハイルを襲う吸血鬼のなかには雪の中に潜んでいる者も。怪物ながら知性を感じさせる描写で、「こいつら思ってたよりヤベェんじゃねえか」と思わせ、緊迫感も割り増しに。異形化形態の彼らは、ウィラードの言葉を借りて言えば「血の力に溺れてる」状態で、理性が飛んで暴力性や欲望が極限まで解放された状態なのかと思ってましたが、ある程度の冷静さは残ってるのかも。

 

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

吸血鬼に迫られて絶体絶命の仔ユーリィ。そこに母の形見のマフラーがまるでユーリィを守ろうとするかのように吸血鬼の顔に被さってきます。しかし、引き裂かれるマフラー。母の死を追体験させるなんとも意地の悪い流れですが、ユーリィの悲しみと憎悪に強く感情移入させるニクい演出です。

 

 

第三話『とけないゆき』

脚本:小柳啓伍

絵コンテ:岡村天斎

演出:安齋剛文

作画監督:杉光 登

総作画監督松浦麻衣