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人生には物語とROCKが必要だ。

『天狼 Sirius the Jaeger』第1話の感想と演出について

CANAAN』の安藤真裕監督が手がけるP.A.WORKS久々のハードアクションアニメ『天狼 Sirius the Jaeger』が面白いです。

昭和モダン薫る東京を舞台に吸血鬼とヴァンパイアハンターの闘いを描く、なんだか色んな意味でレトロな世界観のアニメなんですが、抑える所は抑え、見せるべき所は見せるバランスのとれた殺陣は、アクション作画に定評のある安藤監督が仕切る作品というだけあって、視聴者の関心を引き寄せるのに充分なアピールポイントでした。

何より主人公が扱う武器としてはなんとも作画カロリーが高そうな三節棍というチョイスがなかなか挑戦的です。長柄の武器が映えるには大振りで派手な芝居が不可欠でしょうし、仕込みのある武器は多彩な攻撃方法による幅広い表現が期待されます。しかも主人公が振るう得物なので必然的に出番は増えてくるはず。あえてそんな面倒な武器を設定したあたり、殺陣アクションに対する制作サイドの並々ならぬ意気込みが感じ取れるようです。しかも人狼設定というメガ盛り

ちなみに吸血鬼や人狼という食傷気味な設定は、ややもすると新しいもの好きな視聴者の食欲を削いでしまうリスクを孕んでいて、正直なところ僕も事前情報の時点では「え、いまさら?」などと思ってしまったんですが、今月5日から北米で開催された「Anime Expo 2018」での先行プレミアム上映、Netflixでの独占リアルタイム配信というプロモーションからも察せられるように、この世界観がアクション作画と共に海外の視聴者ウケを狙ったうえで設定されたものであることは想像に難くありません。

見た目の取っ付きやすさと凡庸さは確かに紙一重ですが、利点もあると思います。使い古された設定であるからこそ余計な説明が不要で、初回からガッツリとキャラクターの掘り下げに描写を割くことができるという点です。第1話では吸血鬼やユーリィの異能力についての説明は程々に、むしろ視聴者の理解を前提としたスピーディな物語が展開されていきます。世界観の披露と人物紹介に当てた第1話といった感じで、登場人物もかなり多いんですが、それでもゴチャゴチャしたようなところが無く、それぞれキャラクターの個性が描き分けられている。

本作の魅力はアクションだけではありません。演出も良いんですよ。基本的に自分、普段はアニメの演出面について意識的になって視聴するようなことはなく、主にキャラクターの心理描写やストーリー展開に注目して楽しむ物語重視派なんですが、それでも登場人物たちの関係性、各々の人物像や心情などをしっかりと伝える丁寧な画作りは素人目にもハッとさせられるものがありました。

 

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

 1話でとりわけ印象的だったのは主人公ユーリィのキャラクター描写です。吸血鬼に異常な執着を見せる荒々しさと、花に詳しい様子から伺える穏やかさという対照的な側面を併せ持つ彼ですが、仲間たちとは意識的に距離を取ろうとする冷めた一面があるかと思えば、ウィラードに対して反省した態度を見せる素直な一面もあるようで、その出自ゆえなのか複雑な内面を抱える彼のキャラクター性が入念に表現されていました。

また、ユーリィだけでなく他の狩人のメンバーの個性や関係性について上手く表現されていたのが直江邸での掛け合いのシーンです。やたらとユーリィに突っかかってくるフィリップですが、わざわざ席を寄せてくるという行動がまるで彼の大人気なさや執着心を強調させるようです。全く取り合おうとせずに席を立つユーリィが、自分のなかに流れる血をフィリップに揶揄されたときについ感情的になるさまは、淡白なようでいて内に熱いものを秘めてるユーリィのなかの"ゆらぎ"を垣間見せます。

険悪な雰囲気の二人を取り持とうとするファロンは、ガサツそうな外見に似合わずおセンチな一面もあるようで、弟たちに手を焼く面倒見の良いお兄さんといった感じです。ここでちょっと面白いのは、花を好むユーリィや音楽的感性を持つフィリップと共に、ファロンも吸血鬼狩りという物々しい生業に身を置きながら、どこか繊細な感性を持つキャラクターとして描写されている点です。これは何かの伏線なんだろうか。

紅一点のドロテアはクールで気が強く、でも可愛らしい一面もあり、男所帯のなかでも対等に彼らと渡り合う頼れる姐さんタイプでしょうか。チームのリーダーであるウィラードは、船上でのユーリィとのやり取りからも感じられるように、彼のことを気にかけ、導いていく父親代わりのような立ち処になりそうです。取り逃がした吸血鬼を追い詰めるというメインプロットを立てつつ、狩人たちの大体の個性や関係性を提示する。それが過不足なく行われているのは、そのキャラクター性を説明するのに適切な表現が常にしっかりと選択されているからでしょう。

この点は面従腹背でウィラードに尻尾を振る地元警察の金城警部のコミカルな表情や、「九段分室」なる情報機関に所属する伊庭少佐の不敵な表情など、脇役たちに対しても同様に適用されています。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

とくに上手いなあと感じたのは本作のヒロイン、涼子とユーリィの出会いのシーンでした。この場面における涼子の細かいキャラクター描写が好きです。ユーリィに意識を向けられて咄嗟に物陰に隠れる臆病さを見せながらも、剣術少女らしい克己心でユーリィに迫る彼女。二人を引きで捉えるカットでは、右側の空間を大きく空けてやけにグイグイくる涼子の強引さや圧迫感を引き立たせて、肉食系ヒロインとしてキャラ立ちしてる彼女を視聴者に強く印象付けています。

 

ところで、キャラクターだけではなく世界観の描写も良いですねこの作品。繊細で叙情的な背景美術はP.A.アニメの特徴の一つですが、今作は伝奇的要素が強いため史実性に寄ったデザインになっているようです。時代設定について作中で説明はされていませんが、伊庭少佐が読んでいる新聞をよく見てみると「昭和五年十月二十四日」という表記を確認することができます。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

ここで本作の時代背景について簡単におさらいしておきましょう。昭和5年というと、7年前に起こった関東大震災からの大規模な復興事業がひと段落して、東京をはじめとした全国の主要都市が本格的な近代化を果たした年です。しかし、世界的には前年から発生した大恐慌の真っ只中であり、自由経済への不信やスキャンダルに明け暮れる政党政治に対する失望から、日本国内においてもソ連型の社会主義思想が指向されていった時代でした。

また、暴力革命を掲げる過激な共産主義者の取り締まりを目的としたはずの治安維持法が恣意的に拡大解釈された結果、特高警察によって多くの思想家が非国民として投獄されはじめたのもこの時期です。そんな不安定な情勢のなかで「百虎党」なるテロ集団やヴァンパイアたちが暗躍しているというワケです。街並みはモダンで華やかに見えても、その日陰ではこの国を蝕む多くの不穏分子が蠢いている。というのがこの作品の世界観のようです。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

 

 

最後に気に入ったアクションシーンについて。

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

上海でも日本でも吸血鬼と見るや否や、衝動を抑えられずにスタンドプレーに走るユーリィ。とくに終盤のチェイスアクションでは人狼らしいパルクールを披露。

ぶっちゃけ作戦的にはとくに意味のない行動だったんですが(先回りするわけでも無かったので)、彼の身体能力の高さや協調性に欠ける性格などが伝わってきて好きです。

ちなみに上部画像の左下のシーン、魚眼レンズ風の主観カットを揺らして、おそらく建物の胸壁に飛び降りた際に前転して体勢を整えたことを伝えています。臨場感を与えるとても上手い見せ方です。

 

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

雑兵ヴァンパイアを仕留めたユーリィが得物を大振りして屍骸を払いのけると、その先には炎を背にしたアガサ。この流れがスタイリッシュでカッコいい。そして、アガサを追い詰める狂戦士状態のユーリィ。狩る側から狩られる側へ転ずるという倒錯。このシーンのケモノじみた上村祐翔の叫び演技がまた良いんだ。

 

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© Project SIRIUS /「天狼 Sirius the Jaeger」製作委員会

シリウスの力を覚醒させるユーリィのエフェクト。ちなみに瞳に収斂していくこの光の筋、色は青と赤で違いますけど異形化する吸血鬼たちにも同じような筋が浮かび上がってるんですよね。ひょっとして人狼も吸血鬼も大元のルーツは同じだったり?  負傷して落下するユーリィの瞳が画面に寄ると同時に、覚醒時と対になるかたちでエフェクトが収束。このシーンがクリフハンガーにも関わらず観ていてすごく気持ちいいんです。

 

 

第一話『蘇えりし者、夜に嗤う』

脚本:小柳啓伍

絵コンテ・演出:安藤真裕

作画監督松浦麻衣、佐古宗一郎