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『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』4話 感想と考察:アイリス・カナリーの帰還

 

第4話『「君は道具ではなく、その名が似合う人になるんだ」』の感想と考察です。

まずは考察から。

 

  • 『アイリス・カナリー』

 

今回はエリカと同様にアニメオリジナルキャラクターであるアイリスの当番回ということで、彼女の人となりや育ってきた環境、仕事への向き合い方の変化などがぎっしりと詰め込まれたエピソードとなっていました。帰郷によって果たされた彼女の自己受容が、足を用いた印象的な演出で巧みに表現されていたと思います。

この世界における多くの女性がそうであるように、花形職のドールに憧れ、C.H郵便社に入社したアイリスですが、口だけは立派で実力はなかなか伴いません。そんな彼女が初の指名に浮き立ち、不注意によって階段から転落してしまうさまは、まるで見繕った虚飾が剥がされていくかのように象徴的で、このときの段差を「降りる」という行為は、彼女の虚栄心が捨て去られていく様子を表す記号として、劇中で繰り返し現れているように感じます。

例えばカザリの駅に到着して階段を降りた際、水たまりで跳ねた泥が靴を汚すシーン。まるで見栄を見透かされているように彼女は田舎の洗礼を受けてしまいます。おまけにヴァイオレットが優雅なカーテシーを披露して、ドールとしての気品と風格の違いをまざまざと見せつけてきます。さらには母親からも嘘を見抜かれ、婿探しの段取りまで勝手に進められ、彼女のなかのプロ意識はひたすら軽んじられる始末です。抱きしめて慰めたいです。(キモい)

また、エイモンと再会して彼女が家に篭った際、理由を問うヴァイオレットに対し、裸足でベッドから飛び降りて隠していた過去の思いの丈を吐き出すシーンや、ヴァイオレットとの間にある溝が少し埋まった気がして、意地を張らずに裸足でベッドから降りて謝罪の手紙の代筆を頼むシーンも、心の洗濯という意味では同様の図式で解釈が可能な気もします。

さらに応用して考えると、回想シーンでアイリスがエイモンに想いを告げた場所が高台の棚田であるのは、自身のなかの虚像に恋する夢見がちで有頂天な彼女の心模様を表しているのかもしれませんし、自身の名の由来となった花を両親から贈られることは、気を張って過ごしてきた都会から故郷に降り立って自分を見つめ直し、再び靴を汚してしまってもそれが今の自分なのだと笑って赦せるほどに、自分が本当はどんな人間であるかを受け入れることができた彼女の自己回復を、端的に示してもいたのかもしれません。

花といえば、今回ちょっと驚いたのが、ヒロインたちの名前の由来が現実に咲く花を元にしていると作中で明言されたことです。原作ではヴァイオレットの名前は「(おそらく物語上の)神話に出てくる、花の名の女神」からとられたことになっていますが、劇中では完全にスミレが由来になっていました。この世界では娘に花の名前をつけるのが流行っているようです。

キャラクター造形がそれぞれの由来の花の、花言葉や性質を元に考えられているのは間違いないと思いますが(例えばルクリアという花。強い日差しにとても弱いんだとか。ルクリアたんと光の関係については前回の記事を参照)、ヴァイオレットについてはある詩から名付けられたと作者が原作で語っています。その詩が何であるかは、ぜひ原作を手にとって確認してみてください。(上手いこと宣伝しておきました、京アニさん。ご褒美待ってます) アイリスも花言葉の他に元ネタがあるのかもしれません。帰郷、届かぬ恋、自己回復、淡青のアイリスときたらヘルマン・ヘッセの『アヤメ』? とか思ってみたり。

 

  • ヴァイオレットはいつ「嘘」を理解した?

 

ここでひとつ、前回の記事からの流れを汲んで深読みをしてみたいのですが、ヴァイオレットが「人の気持ちが分からない」とアイリスに言われたとき、人の気持ちは裏腹であったり「嘘をつく場合もあり」正確に把握することはできないと彼女は返します。ここで引っかかるのは、彼女はいつ「嘘」を理解したのかという疑問です。

彼女はいつも人の気持ちを理解するとき、まず言葉を知り、その言葉を自らが経験したうえで、他者の経験にそのときの感情を重ね合せるという段階を踏んでいます。今回もその例に倣っており、彼女がお詫びの手紙を代筆できたのは、アイリスが感じていた、誕生日を祝福する村の人たちの想いを蔑ろにしてしまった申し訳なさに、自分が感じた、アイリスの気持ちを蔑ろにして傷つけた申し訳なさを重ねたからでしょう。

このように彼女が人の気持ちを理解するには、まず自身がそれと同じ気持ちを経験しなければならないんです。人が時に「嘘をつく場合もある」という事を理解してるのは、まず自分が嘘をつき、人から嘘をつかれた経験があってこそなんです。これまでの描写のなかで彼女が誰かに嘘をつかれたと思われる場面は一つだけです。ホッジンズ社長がギルベルト少佐の安否について彼女に返した言葉ですね。(アイリスが両親たちについた嘘や、母親がアイリスについた嘘は、厳密には彼女がつかれた嘘ではありません)

彼女はこの言葉が嘘なのではないかと、やはり疑っているのかもしれません。では、この言葉が嘘かもしれないと彼女はどうして理解できたのか。それは、彼女自身が本当は少佐の生存を信じておらず、それでもなお自らの存在理由を保つために少佐は生きて戻って来るのだと、自分自身に「嘘」をついているからではないでしょうか。まあここらへんの考えは少し無理があるかなあと、正直自分でも思っています。

 

 

  • 感想

 

アイリスがひたすらかわいい回です。足の使い方もそうですが、彼女の直情的な性格を伝えるため、とても豊かな表情や芝居で感情が表現された回でもあったように思えます。身体の動きが視覚的に伝わりやすい衣装なのも納得です。かわいい。つい余計な一言を発してしまいがちな彼女ですが、すぐに言い過ぎてしまったと反省する姿に好感が持てます。根は心優しい子なのでしょう。かわいい。お調子者でおっちょこちょいな一面もありますが努力家で芯が強い部分もあります。かわいい。故郷が何もない場所と言われて思わずムッとするくらい郷土愛の強いところがかわいい。もともとショートヘアなのに失恋後に髪を切る律儀でベタクソな乙女っぷりが超かわいい。失恋がきっかけでドールを目指したわけではありませんが、早く一人前のドールとして大成したいと焦るのは、カトレアへの憧れだけではなく、エイモンを見返すためでもあったのかもしれません。男はもうこりごりだなんて百合覚醒のポテンシャルも秘めているさすが将来有望株ですね。かわいいなあ。そうそう、ドール衣装もそそられますが、故郷の民族衣装姿もかわいいです。ぜひ、裾をまくって嫌な顔されながらおパンt

 

行きの列車のなかで窓越しにヴァイオレットと目が合い、思わずアイリスが目をそらすシーン。2話でエリカが改めてヴァイオレットを紹介されたときのやりとりの反復なんですが、エリカのときは瞬き一つせずに振り向くヴァイオレットの人形らしさが全開だったのに対し、今回はヴァイオレットの仕草がとても人間らしくなっていて、変化を感じさせるとても上手い見せ方だなあと感じました。何気に田毎の月に感嘆とする様子も描かれ、彼女の情緒や感性が少しずつ育まれていることを示していたのも印象的でした。

 

今回はライデンを飛び出してアイリスの故郷へと出向く、ヴァイオレットの初出張回でもあったわけですが、公式サイトを見て気付かされるのがこのアニメの世界観設定の緻密さです。本編では見えてこない歴史背景まで詳細に設定されており、作品に奥行きのあるリアリティを与えています。今回の舞台であるカザリにおいても、大戦時は比較的安全な状態にあったとされ、その背景は戦争を知らないアイリスとヴァイオレットとの間にある齟齬を演出するファクターとして機能しています。今後も行く先々でどんな土地柄が描かれていくのか楽しみです。