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『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』3話 感想と考察:ルクリア・モールバラの言葉の余白

 

第3話『「あなたが、良き自動手記人形になりますように」』の感想と考察です。

まずは考察から。

 

  • 『ルクリア・モールバラ』

 

ヴァイオレットが一流のドールとなるべく訪れたドール養成学校。そこで彼女が経験した新たな出会いと、新たに手にいれたものを、閉塞的な薄闇と開放的な黄昏の対比で彩った第3話。本記事では今話の語り部であるヒロイン、ルクリア・モールバラを縛り付けていた心のくさびについて考えていきたいと思います。

今回の話は細かいことを気にせずに観れば、兄に感謝の意を伝えられずにいた妹が感情の乏しい女の子と出会い、その子の拙い仲立ちによって兄との絆を回復するという、なんてことはない、典型的なお涙頂戴話と受け取られかねません。しかし、ようく考えるといまいち不可解で、捉えどころがなくモヤモヤとした気分にさせられる、そんなシーンがいくつか見受けられるエピソードでした。個人的に最も不可解だったのが、ルクリアはなぜ頑なに兄に想いを伝えることを恐れたのかという問題です。

彼女が手紙を書けない本当の理由とはなんでしょうか。言葉を見つけられないから? あるいは逆に余計な言葉で飾ってしまうから? 分からなくもないですが、たとえ取り留めのない言葉や、冗長な言葉であっても、それが、大事な手紙が書けない理由になるとはあまり思えません。それに彼女は学内成績優秀者として学校を卒業しています。どうやら文章が問題ではないようです。いや、そもそも彼女は兄に伝えたい言葉をすでに見つけています。ヴァイオレットが手紙にしたためた言葉ですね。

言葉が見つかっていてなお、それを伝えることができないのは、彼女自身の心に問題があるからでしょう。ヴァイオレットから「手紙を書きましょう」と言われたとき、彼女はただ「駄目なの」と繰り返して逃げるように講堂を出ていきます。その様子は何かを恐れているようにも見えます。では、彼女は何を恐れているのでしょうか。その答えのヒントとなるのが、兄が抱える心の問題であると僕は考えます。

兄のスペンサーは、西部戦線で突然に両親を失い、遺品も見つからず、その死を実感できないまま戦争の渦中に放り出されます。左脚の障害もそのときに負ったものでしょう。傷痍軍人として帰還した彼はルクリアとささやかな暮らしを始めますが、戦争の惨禍はその心にも深い爪痕を残しました。両親のために何もできなかった後悔と自責の念が彼を苛み、生還した喜びは彼にとって深い罪悪感の呼び水となったようです。

スペンサーのように戦争や災害、事件や事故に巻き込まれた生存者が、親族あるいは見知らぬ他人の犠牲者に対して深い罪悪感を覚えてしまうことを、精神医学の世界ではサバイバーズ・ギルトと呼んでいます。「どうしてあのとき救えなかったのか」「自分には生き残る価値が果たしてあるのか」「自分よりも助かるべき人がもっといたはずではないのか」と、過剰な罪悪感を抱いてしまい、その苦しみによるストレスはアルコール依存やうつ症状につながり、果てはPTSD自殺念慮といった問題をも引き起こすと言われています。

このような苦しみを抱えている人に対して、馴染みの無い人はつい慰めの言葉をかけてしまいがちになるようですが、安易な慰めや励ましはかえって逆効果となり、その心の傷を広げてしまうことになりかねないのだそうです。こんな時はただ相手の言葉に耳を傾け、悲劇を受け容れられるようになるまで寄り添い続けるのが良いとされています。また研究では、この罪悪感に苦しむ人に対して"かけてはいけない言葉"というのが分かってきており「あなたが生きていてくれて良かった」もその一つなのだとか。

ルクリアは脚を傷付きながらも生きて戻ってきてくれた兄のことを、心から祝福したかったと思います。一方で、その感謝の言葉が兄を苦しませることも分かっていたのではないでしょうか。なぜなら彼女もまた両親の死によって兄と同じように苦しんだはずだからです。自罰的なまでに荒み、酒場で悔恨に顔を歪ませる兄に対して、差し出した手を引っ込めたときのように、これまでルクリアは兄への言葉を幾度も飲み込んできたのでしょう。

幸せになってはいけない。そんな塞いだ心を象徴するかのように兄妹が暮らす部屋は終始薄闇に包まれています。二人が両親の死の影から抜け出せないのは、そこから踏み出して前へ進んでしまうと、それだけ両親との思い出が遠ざかり、悲しみに対して鈍感になっていくのが怖いからなのかもしれません。講堂でルクリアがヴァイオレットと再会して、逃げるようにその場を後にするまでの一連の流れ。構内に差し込む光が徐々に衰えていく様子は、光ある暮らしを恐れる彼女の後ろ向きな心を表しているようにも感じました。

しかし、そのまま停滞し続けるわけにもいかないことは彼女も理解していたはずです。どんなに深い谷底にいようと日常は否応なしに兄妹の人生を押し流していきます。生活と兄を支えるためにルクリアはドールを志しますが、学校を卒業してからの展望を彼女は持っていません。前に進まなければならないのは頭で理解しているのに、どうやら心の方がそれに追いついていないようです。

そんななか、思いがけず兄妹の薄闇を穿ったのが、光で照らされたヴァイオレットの手紙でした。たとえそれが"罪"であっても、「あなたが生きていてくれて良かった」はルクリアにとってどうしようもないほど真実です。スペンサーはその簡素な手紙の余白に、言葉にならないルクリアの想いも幻視したのかもしれません。なぜなら「あなたが生きていてくれて良かった」は、スペンサーがルクリアに対して想う気持ちでもあるからです。言葉が掬いあげそびれた想いを橋渡しするのは共感する心です。兄妹のあいだにある両親への想いが手紙の余白を埋めたのかもしれません。

兄妹の停滞の象徴が、二人が暮らす薄闇の部屋であるのなら、その対極にあたるのが、鐘楼の頂上にある黄昏の光に包まれた展望室です。劇中の回想シーンでは、ここに訪れた幼い頃の兄妹が麦わら帽子を失う様子が描かれていました。打ちのめされて仰臥するスペンサーは鐘楼に向かって手を伸ばします。風に飛ばされたいつかの帽子に、突然帰らぬ人となった両親の面影を重ねていたのかもしれません。ルクリアがいつも似た帽子を携えているのも、恐らくあのとき無くした帽子を買ってくれた、両親の面影を追い求めているからなのだと思います。

かつて兄の手に引かれて訪れた展望室に、ルクリアは兄の手を引いて訪れました。黄昏の寂しい光を浴びながら、やはりどこか寂しそうな表情で前を向いて立つ二人のラストシーン。それは両親の死を乗り越えるのではなく、その死を抱きながらこれからを生きていこうとする兄妹の、新たな門出を意味していたのかもしれません。

 

  • ヴァイオレットが本当に掬いあげたもの

 

ヴァイオレットがはじめて代筆した"手紙"ですが、彼女がどこまでルクリアの想いを汲み取っていたのかは、正直なところよく分かりません。ルクリアの言葉をただ書き取っただけかもしれないし、少佐が生きていると知ったときの自分の想いをルクリアの言葉に重ねたのかもしれない。ただ、それでも彼女の手紙がローダンセ先生の心を打った理由は、手紙の内容よりも、手紙を届けた行為そのものにあると僕は考えています。

ヴァイオレットはタイプ実習の際、速度の指定を求めるほど"命令"というものに忠実でした。そんな彼女が、講座が終了し、ルクリアから手紙は必要ないと言われてもなお、手紙をしたため、スペンサーのもとへと送り届けたのは、誰からの命令でもない、そうするべきであると自ら考えた彼女の自発的行動であり、本当は兄に言葉を送りたいと願っているルクリアの心こそを掬いあげたからでしょう。言葉を届けたいと思う気持ちは、ドールにとって最も重要な素養なのかもしれません。

 

  • ヴァイオレットが義手で手袋を外したワケ

 

彼女がルクリアの想いを代筆して手紙を届けたいと思ったのは、言葉を見つけられずにいながらも、少佐に心を届けたいと願っている自分自身を、ルクリアのなかに重ねて見ていたからなのだと僕は考えます。では、どんな少佐への想いを彼女はその代筆のなかに込めていたのでしょう。それを推察するための手がかりとなるのは、手紙を書き始める際、ヴァイオレットが"義手で"手袋を外す行為です。

彼女はこれまで、手袋を口で外していました。それだけではなく、何かを噛んだり口に含む行動が度々描かれているんですが、この彼女の噛み癖についての考察をツイッターで見かけて僕はとても納得させられました。噛み癖は幼児期の子どもによく見られる行動で、この時期の子どもは感情を表現する言葉を持たないために、噛むという行為で意思を伝えるのだとよく言われています。2話でヴァイオレットが戻ってきたブローチを甘噛みしていたのは、少佐への言葉にならない想いを慰めるためでしょう。

彼女が何かを噛む行為には、少佐を想う寂しさや彼女の未成熟さが表現されているのだと解釈して良いと思います。そんな彼女はスペンサー宛ての手紙を書き始める際、少佐を想ってブローチを握りかけますが、気持ちを抑えるように手を止め、口ではなく義手で手袋を外しました。ここに、彼女の心の変化が受け取れます。

ルクリアに連れられて鐘楼の展望室に訪れたとき、彼女は少佐の言葉と埋葬された兵士たちを追想します。スペンサーが帽子を無くした日を回顧したように、展望室では死や喪失のイメージが繰り返されます。彼女は少佐が見せたかったのはこの景色なのかもしれないと、あの時の言葉の意味を理解しました。彼女は少しずつ少佐の想いに近づいています。「愛してる」と告げる前に彼が口にした「生きて、自由になりなさい」という言葉の重みも、実感をともなって彼女のなかに想起されたことでしょう。兄妹が前に進めたこの場所で、「死と再生」が反復します。

両親の死の影に囚われた兄妹に、少佐の影に囚われた自分を重ねたヴァイオレットは、明確な意思は無くともその"代筆"によって、兄妹と自分自身の再生を重ねたのではないでしょうか。彼女が自らの義手で手袋を外したのは、「自由になれ」という少佐の言葉に報いるために、自らの手でその影から踏み出そうとする意思が込められていたように僕は思います。(深読みすれば、彼女は心のどこかで少佐の生存を疑っており、彼が「戻って来ない」ことを受け容れようともしていたのかもしれません)

 

 

  • 感想

 

スペンサーが手紙を読むときにそっと灯りを向けるヴァイオレットのシーンが気に入ってます。人間味にあふれ、彼女の心の成長を伺わせる感動的なシーンなのに引きで見せるあの思い切りの良さ。凄いです。

ドールに必要な語彙力や文法といった基礎技能はしっかり身についたようなので、ヴァイオレットにあと必要なのは、知識から理解へ、経験によって言葉を自分の言葉にしていくことでしょうか。しかし、その前に一つ気掛かりがあります。エヴァーガーデン夫人との関係です。どこかでフォローがあるといいんですが……。名前を借りてるだけじゃ、PVにもあったヴァイオレットの口上もカッコつきませんしね。

 

画面的な話をすれば、今回のエピソードでは光と影の対比が目を引きます。しかし、それよりも僕が印象的に感じたのは、脚本の"余白"です。今回の話、記事の冒頭でも述べたように、一見すると「ペラい」話なんですよ。でも、キャラクターの言動や画面の演出に目を凝らしてみると、台詞では語り得ない登場人物たちの心のありようがなんとなく見えてきます。

雄弁な演出はシリーズを貫くこのアニメにとっての表現の哲学なのだろうとは思いますが、それとは対照的に、今回は台詞が極限まで削ぎ落とされている気がします。なのでその分、視聴者はキャラクターたちの言葉の余白にある絵に意識が向いて、必死になって画面を「読む」。これまた凄く思い切ったことしたなあと個人的に感嘆してます。

深読みをしたくなるのは、読ませるものがきっとそこに隠されていると、そう確信できるだけの説得力が画面にある場合だけです。その点に関しては僕、京アニに絶対の信頼を置いています。(こんな感じでいいでしょうか、京アニさん。ご褒美待ってます) そういえば今回の簡素な脚本は、なんだか劇中でヴァイオレットがしたためた簡素な手紙と重なるような気もしました。なので、どう解釈したらみんなに深イイ話なんだよ〜と言い張れるのかかなり悩みました。

 

OPとEDの映像が解禁されました。素晴らしいです。『Sincerely』も『みちしるべ』同様に直接的な表現の歌詞になっていて、感情と言葉が結びつかずに惑うヴァイオレットの心情を、叙情的なメロディーに乗せる切ない一曲です。OPもEDも余計な物は一切描かれていません。ただ歌詞の意味を補完するために添えられてるような映像が、言葉に真摯な作品の雰囲気をよく表していると思います。

 

感想は以上になりますが、今回はしんみりとした話に感化されて少し真面目に語りすぎました。なんだか照れ臭いので脈略もなく推しキャラの話をしたいと思います。現時点のお気に入りはアイリスです。いけ好かない態度ばかり目立ちますが、どんなデレ方するのか楽しみで仕方ないです。あの生っぽい小娘感がイイです。ぜひ、嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたいです。