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『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』7話 感想と考察:歴史のある国が省みたワケ

第7話『歴史のある国』の感想と考察です。

今回は『歴史のある国  – Don't Look Back! –』の単独構成でした。

 

 

今回も分りやすい話でしたね。

キノの師匠と、その相棒の過去話。二人が立ち寄ったのは、警察が武力を独占し、強大な権力を持つ国。それ故に国内では政治腐敗が横行していた。

警官に濡れ衣を着せられてハメられた二人は、逆に国の中枢に陣取って、ねちっこい方法で警察を追い詰め、しまいには大金をせしめて悠々と国を後にするという、毒をもって毒を制するようなお話でした。

では、個人的に気になった点を。

 

  • 警察が下手に出すぎじゃない?

 

合同庁舎として使用されている元宮殿の中央に聳え、重要文化財にも指定されている時計塔。その内部には武器庫も食料庫もある。それらをおさえられては、相手側も派手な破壊行為に打って出ることはできません。籠城にはもってこいです。

また時計塔は国の威信の象徴でもあるためか、国内で最も高い建造物であり、周囲には視界を遮るものもありません。狙撃には打ってつけ。二人は地の利を生かし、隊員の士気を削ぎながら警察側を追い詰めていきます。

各省庁からも尻を叩かれ、なけなしの戦力でなんとか対処しようとする警察ですが、焦る理由はそれだけではありません。最も懸念すべきは、日頃の民衆の不満がこの機に乗じて反乱の画策へと向かうことでしょう。国の性格上、民衆の支持が厚かったとはとても思えませんし。

四面楚歌の警察は、全面的に二人の要求を呑むほかありませんでした。きっと、師匠はそこまで計算したうえで籠城という選択を取ったのだと思います。もちろん、「たまには自分の最高の実力を出す」ためでもあります。

同じ台詞を以前キノも口にしていたように、今回の話は『コロシアム』と状況が似ていて、対の物語となっていますが、さすが師匠。キノよりもスマートに国を後にすることができました。

 

 

籠城事件以後、この国の管理体制は改善されました。事件はマヌケにも国中に報道され、警察の威信も失墜したはずですが、当時の事件に関わっていたと思われる老人は幸せな余生を送っていそうです。それまでの癒着構造の根深さを感じさせます。キノが国に訪れた際、武装した警官の姿は無かったので、現在は警察の権限は縮小されているのでしょう。

しかしガバナンスの向上をもたらしたのはそれだけが理由ではない気がします。恥ずべき事実を隠蔽し、捏造した英雄叙事詩を語り継いでいったことで、結果的に国民のナショナリズムが良い形で高揚されたのかもしれません。歴史は為政者によって都合よく編纂されるもの、とはよく言われますが、この国においてはそれがポジティブな結果をもたらしたようです。

怒りや失望よりも、憧れが人を動かした。健忘が前進と発展に繋がることも時にはあるものです。"Don't Look Back"の精神ですね。怒りで振り返ってはいけないとイギリスの国歌でも歌われています。(ウソです)

歴史は人によって作られ、人もまた歴史によって作られる、そんなお話でした。まあ、単なるトラウマかもしれませんけど……。

 

 

  • 感想

 

今回はとても滑稽でシニカルな物語であったため、3話以上にコメディタッチな演技、間、動きが目立ちました。こういう空気感は前作には見られなかった部分であり、世界観に新たな解釈が加わって、『キノ』という作品がより表情豊かになったような気がします。

 

過去パートのモノクロやセピア調の色彩は、なんだか古びた映画のようで渋くてカッコよかったです。キノがカラフルな紅葉混じりの森の中を走行するシーンと対照的でした。ひとつの作品にカラーとモノトーンのシーンを同居させることで、過去の出来事の寒々しさを演出するのは『シンドラーのリスト』を思い出させます。

 

そういや、籠城シーンは『ダイ・ハード』を思い出しました。高所に立て篭もるテロリスト(もちろん、師匠と相棒のことです)と警官の対立という構図や、メディアによって事態が筒抜けになる失態、装甲車をロケット弾で撃ち抜くシーンには既視感をおぼえましたね。

狙撃兵が敵兵を負傷させて、助けに来た兵士もろとも撃ち殺すというエグい話をはじめて知ったのは、『フルメタル・ジャケット』でだったかな。やっぱり今回はどこか映画的な感じがします。