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『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』5話 感想と考察:物語に隠された最後の嘘

第5話『嘘つき達の国』の感想と考察です。

今回は、

Aパート:『旅人の話  – You –』

BパートとED:『嘘つき達の国  – Waiting For You –』

という構成でした。

 

 

まずは考察から

 

……と思ったんですが今回の話も、今さら解説の必要なんて無いほどに、不可解な点は作中で説明し尽くされていますね。

国の圧政に耐えかねた民衆による革命の兆し。アクティブな王女は国外れに住む田舎娘という偽装で反乱組織の実行部隊のリーダーに接触、恋に落ちる。その姿はとても仲睦まじく周囲の目に映った。

1年後、王女はリーダーから一方的に別れを告げられる。その直後に革命は決行され、リーダーは王族を爆殺するが、実行部隊がそこで目にしたのは変わり果てたリーダーの恋人の姿だった。

革命は成功したものの、リーダーは自分の恋人が王女であったこと、そんな彼女を自分が殺してしまったこと、その二重のショックで精神を病んでしまう。見兼ねた医者は「あなたの恋人は旅に出た」と嘘をつき、その言葉を信じた彼は戻らない恋人をいつまでも待ち続けた。

一方、事前に革命の危機が差し迫ったことを察した王女は、身代わりを立てて難を逃れていた。彼の事を忘れられなかった王女は再び素性を隠して国に戻る。ちょうど国は彼の世話役を探していて、彼女を家政婦として雇い入れた。王女はそのささやかな幸せに満足し、彼に寄り添い続けた。

国民たちは英雄である彼のために「恋人はいつか戻る」と嘘をつき続け、彼と嘘で出会い、嘘で別れた王女は再び彼と嘘で繋がり続ける。しかし優しい嘘の連鎖はそれだけではなかった。

彼もまた国民や王女の嘘に気づき、今の幸せを壊さぬよう狂人のフリをして嘘をつき続けていたのだ。この国の連帯の土台は、まさに嘘で塗り固められている……というお話でした。めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

…………ん?

 

 

何か、おかしいですね。

 

王女が旅人として再び国に戻ったとき、なぜ彼女が王女だと誰も気付かなかったんでしょう?

 

キノと話をしていた実行部隊の友人や国民たちは、革命前のリーダーと王女の仲睦まじい様子を知っていますし、爆殺された王女と瓜二つの身代わりの姿も目撃してるはずです。気付かないというのはおかしくないですか?

実行部隊の友人はリーダーの恋人を「長い髪をした、美しいひとだった」と評しています。国に戻った王女はショートヘアですが、それでも決して別人に見えたりはしないでしょう。当時は化粧が派手だった? それだって別人とまではいかないでしょうし、そもそも偽装の設定は「田舎娘」のはずです。

革命後に整形したんだろ? それだとリーダーは雇われた家政婦さんが彼女であると気付くことができません。いやまあ愛があればなんたらってことで説明できなくもないですけど、この話で整形ネタ使われると、個人的になんだかせっかくのロマンスが薄れるような気がするので却下です。(横暴)

 

  • 隠された最後の嘘

 

この疑問を解消する手が一つだけあります。革命前に国民が目にしていたリーダーの恋人は、そもそも彼女ではなかった。ということです。

思い出してください。実行部隊の友人はキノに、爆殺された王女(身代わり)の姿を見て、はじめて王女がリーダーの恋人であると知ったと語っていました。つまりここの国民たちはそれまで王女がどんな姿をしているのか知らなかったんです。

それならば、王女とは別の「長い髪をした、美しい」替え玉が、国民たちの前で恋人として振舞い、王女として爆殺されても、彼らはその身代わりを王女かつリーダーの恋人として認識するでしょう。行き倒れていた旅人の女性を、本物の王女だと気付く者などいるはずもないです。

しかし、そうなると当然リーダーも一枚噛んでることになります。僕はリーダーは革命前から王女の素性に気付いていたのだと考えます。王女は身分を偽って彼に近付きましたが、それはすぐに見破られた。それでも彼は彼女を愛し、彼女もまた彼を愛し民衆の苦しみに共感した。二人は道ならぬ恋と革命を成就させるための方法を模索します。

王女の姿は民衆に知られていないのだから、革命の際に適当な身代わりを立てて、素知らぬ顔で暮らしていくというのはどうか。しかし革命の英雄として祭り上げられ、新政府の要職として常に人目に触れる生活では、彼女の正体に気付く者がいつ現れるとも知れません。そうなったとき、王族への憎しみが再び彼女に向けられる可能性があります。

では、いっそ知らない土地へ駆け落ちするのはどうか。しかしこの国では市民の出国は認められていません。(この不可解な国法は、革命後に外で暮らす元王族を守るために制定されたのかもしれません。表向きにはどんな意図があるのか、よく分かりませんが)

どうにかしてこの国のなかで誰にも干渉されずに暮らしていける方法はないものか。そうして考えた末に見つけた二人の答えが、悲劇によって精神が病んだフリをして、人目に付かない森の中でひっそりと、表向きは頭のイカれた男とその世話役として暮らしていく、というものだったのではないでしょうか。

キノに話をしていた実行部隊の友人、おそらく彼こそ王家のスパイであり、すべてを知ったうえで昔も今も二人をサポートし続けているのだと思います。爆殺された王女が本物であると民衆に信じ込ませたり、旅人として国に戻った王女を家政婦に推薦したり、色々と手引きしていたのではないでしょうか。

謎はすべて解けた。真実はいつも一つ。ただこの推理だと、同じくすべてを知ったうえで二人のために、恋人のフリして命まで捧げて悲劇を演出した身代わりの女性、ド根性すぎだろ……。

 

  • なんで皆、キノにベラベラ喋るの?

 

脚本の都合じゃありません。秘密を抱え続けることは、人間にとって精神的な負担となります。ですので童話『王様の耳はロバの耳』のように誰か、あるいはどこかについ吐き出したくなるものなんです。誰かを傷つけない程度に、適度に自分の中を吐き出すというのは精神衛生上、大切なことらしいです。

それともう一つ、キノが部外者であるということも理由かもしれません。前述の推理が正しいことを前提にしますが、外部の人間がリーダーの心の問題や二人の事情を解決しようと、親切心で深入りするような事があっては、せっかくの二人の計画が台無しになってしまいかねません。

国民たちにリーダーの話を切り出したのはキノの方です。スパイの友人はキノがリーダーの事情に興味を持っていると受け取ってしまい、下手に隠し立てしてかえって興味を煽るよりは、こちらから許せる範囲まで話してしまおうと考えたのではないでしょうか。

上手な嘘のつき方とは9割の真実に1割の嘘を添えること、という話もあります。2回もドンデン返しがあれば、大抵の人間はそれが真実なのだと納得して、それ以上掘り下げるような真似はしないでしょう。特にそれが「いい話」である場合、なおのこと人は信じたがるものです。王女とリーダーは暗にこうキノに告げています。自分たちは幸せだから余計なことは考えるな、と。脚本の都合じゃありません。いいですか。決っっして脚本の都合じゃありませんよ。

 

  • っていうかAパートの話って必要?

 

尺が余りますし。 Aパートの話は「電撃文庫ビジュアルノベル」というレーベルで発売された、絵本形式のハードカバー本に収録されている『旅人の話  – You –』をアニメ化したものです。今回は二本立てなんですね。いくつかの話をまとめる構成は前作でも採用されていました。よーく観ると、この話と『嘘つき達の国』には偽りを信じ込むという点以外にも、重なる部分があるように思えてくるんですよ。

記念館のモトラドが黙って展示され続けるのは、単体では動くことができないからというだけではない気がします。それがいくら誤解の果ての地獄であっても、彼は旅人を慕う国民の想いを無下にできなかったのではないでしょうか。この健全とは言い切れない善意の送受信による見せかけの安寧は、『嘘つき達の国』におけるリーダーと国民たちの関係性に通じるものがあります。しかしその結果、手にした暮らしは一方は不幸、もう一方は幸福という両極端です。

それに『嘘つき達の国』の英題である"Waiting For You"。恋人を待ち続けるリーダーだけでなく、自分を連れ出してくれる旅人を待つモトラドの思いにも掛かってるワケですね。ちなみにwaitという単語には「給仕する」「仕える」という意味もあります。"Wait on you"で「あなたに仕える」になりますよね。ひょっとするとこの英題には、恋人と家政婦という立場を併せ持つ王女のイメージも含まれてるのかもしれません。

タイトルの解釈ついでに語らせてもらうと、『嘘つき達の国』の美術のなかで一際目をひく、紅葉とのコントラストがとても印象的な落葉樹は白樺です。花言葉はもちろん「あなたをお待ちします」。他に「柔和」「忍耐強さ」という意味もあるそうです。二人の暮らしぶりを表しているようですね。真っ赤な紅葉を敷き詰める森は、真っ赤な嘘で覆い隠す二人の生活を暗示してるようでもあります。

さらに性懲りもなく、原題の"You"についても語らせてもらうと、原作では最後に出てきた少年のくだりが、「私」という少年の一人称視点で記述されているそうです。つまりこの話、少年を読者に重ねてるようにも思えるんですよ。少年の視点を通して読者に「旅」に出ろと語りかけているようなイメージです。Youとは読者であるあなたの事かもしれません。だからと言って盗んだバイクで走り出し、誰にも縛られたくないと逃げ込んだその夜に自由になれた気がしたりしてはいけませんよ? 

 

 

  • 感想

 

別の物語を組み合わせることで、物語のテーマやイメージが重層的に補強されたり広がったりする構成力の妙は健在ですね。映像化されるエピソードはすでに公表されていますが、この先も思いがけないところで今話のようなサプライズがあるかもしれません。原作ファンの期待も広がりそうです。

 

構成といえば、思索を促す『キノ』らしい1話から、バトルもの、ブラックジョーク風、切ない系、イイ話と、バラエティに富んだラインナップで展開されているのも面白いです。この作品のカラーの幅広さを実感させるシリーズ構成ですね。